不動産業者の営業マンからよく聞くセールストークに、「マンション投資は節税になる」というものがあります。マンション投資の経験がない会社員ならば、節税と言われてもあまりピンとこない人も多いことでしょう。
しかし、マンション投資には節税がつきものです。節税した場合と節税しない場合とでは、納税額や手元に残る利益が大きく変わってきます。
マンション投資を効率よく進めるためにも、不動産投資に関する税制と節税の仕組みをマスターしましょう。
マンション投資が節税になる?
会社員がマンション投資を始めるメリットは色々ありますが、「節税になる」というのもメリットのひとつです。なぜマンション投資が節税になるのか、それを理解するためには日本の税制を理解する必要があります。
給与所得と不動産所得は総合課税
日本の税制では、所得に応じて税金を支払わなければなりません。会社員の給与所得も課税対象です。
もっとも、この税金は給与から天引きする形で会社が納付するため、あまり実感がないかもしれません。
マンション投資によって得られる不動産所得(賃料収入など)も、同じように課税対象です。会社員がマンション投資に取り組む場合、給与所得と不動産所得を同時に得ることになります。
これらは総合課税ですから、合算した金額に税率を掛け合わせることで所得税が確定する仕組みです。所得税は累進課税のため、所得が多いほど税率が高くなっていきます。
2022年11月現在、所得税は課税所得に応じて最大45%まで上がり、住民税は一律10%の設定となっています。
マンション投資を始めるとどう変わる?
マンション投資を始めることで、課税所得はどのように変わるでしょうか。
年収700万円の会社員の場合、給与所得に対する所得税率は23%、控除額は63万6000円です。
したがって納税額は、
700万円×23%-63.6万円=97.4万円
となります。
マンション投資によって所得が増えるにつれて、税率は33%、40%、45%と上がっていきます。税率33%が適用されるのは、課税所得が900~1799.9万円の場合です。
つまり、マンション投資で年間200万円の収入を得た時点で、税率が23%から33%に跳ね上がります。マンション投資を始める人の多くは、投資規模を拡大して多額の不動産所得を得たいと考えます。
しかし、多数の不動産を所有して課税所得が4000万円を超えると、所得税(45%)と住民税(10%)で55%も課税されてしまい、半分近くも税金に取られることに。これでは何のために投資しているか分かりません。
損益通算で節税できる
そこで、総合課税の仕組みを利用して節税を図ることが重要です。マンション投資に要した経費を計上し、不動産所得を圧縮すれば納税額を減らすことができます。
後述の通り、減価償却の仕組みを活用することで、数十万円単位での節税も可能です。
もちろん、マンション投資で赤字が発生した場合には、「給与所得のみ」よりも「給与所得+不動産所得」の方が納税額は低くなります。
これが、マンション投資が節税になるといわれる理由です。
減価償却で節税できる仕組み
マンション投資で節税するには、減価償却の活用が欠かせません。減価償却とは、資産の取得に要した費用を一定期間にわたって経費として計上できる仕組みです。
不動産は減価償却期間が長く、まとまった経費を計上できるため、大きな節税効果が期待できます。
しっかりと節税するためにも、減価償却について理解しておくことが大切です。
減価償却できる期間は?
減価償却の対象となる資産は多岐にわたり、また資産によって減価償却できる期間が異なります。不動産の減価償却期間は、法定耐用年数に準じます。
新築の場合、木造アパートの減価償却期間は22年間、鉄筋鉄骨コンクリート造の減価償却期間は47年間です。
中古物件の場合、経過年数に応じて法定耐用年数が目減りするため、減価償却期間も短くなります。
中古物件の減価償却期間の計算方法は以下の通りです。
- 法定耐用年数が一部経過している場合:(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2
- 法定耐用年数が全部経過している場合:法定耐用年数×0.2
減価償却の計算方法
毎年の減価償却費は、定額法(法定耐用年数に基づき計算する方法)によって算出するのが一般的です。計算式は「物件取得額(建物部分)×償却率」。
償却率は耐用年数によって細かく変動するため、以下の表を参考にしてください。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/070412/pdf/3.pdf
マンション投資で節税する具体例
減価償却によってどのくらい節税できるか、具体的に計算してみましょう。
シミュレーションの条件
ここでは、以下の条件で物件を購入したものと仮定します。
- 物件取得価格:1億円(建物部分は7500万円)
- 構造:RC造(新築)
- 減価償却期間:47年
- 年間賃料:600万円(利回り5.6%)
- 借入金額:8000万円
- 借入金利:2.0%
- 借入期間:35年
節税しない場合の納税額
満室時の賃料収入600万円に対し、年間120万円(賃料の20%と仮定)を支払うと、利益は480万円。元利均等方式の場合、毎年の返済は320万円となり、1年目の支払利息はこのうち160万円です。支払利息は経費に計上できるため、これを差し引くと利益は320万円となります。
さて、700万円の給与所得に320万円の不動産所得を合算すると課税所得は1020万円です。
会社員としての年収だけであれば所得税率は23%ですが、マンション投資を始めたことで所得税率が33%に上昇してしまいます。
これにより、納税額は以下のように変化します。
- 給与所得のみ:700万円×23%-63.6万円=97.4万円
- 給与所得+不動産所得:1020万円×33%-153.6万円=183万円
マンション投資を始めたことによって、納税額が2倍近くに跳ね上がっているのが分かります。
節税した場合の納税額
そこで、減価償却によって節税してみましょう。
この物件の減価償却期間は47年間(償却率0.022)、建物部分は7500万円ですから、年間で計上できる減価償却費は165万円です。
これを経費として計上することで、不動産所得は320万円から155万円に減少。給与所得700万円と合算すると課税所得は855万円となり、所得税率を23%に維持できます。
以下の通り、納税額の上昇も軽微です。
- 給与所得のみ:700万円×23%-63.6万円=97.4万円
- 給与所得+不動産所得:855万円×23%-63.6万円=133.05万円
減価償却で節税することにより、納税額は183万円から133.05万円へと約50万円も減りました。
手元に残る現金が増える
さらに、減価償却費は帳簿で計上するだけで、実際に手元からお金が出ていくわけではありません。節税できた50万円に加えて、165万円も多く手元に残るのです。
マンション投資では、設備不良が起こったり、退去者が一時的に重なったりすることによって、突発的な出費が発生することもあります。
節税を通して手元資金を厚くしておけば、イレギュラーな事態にも安心して対応できます。
まとめ
マンション投資の節税について解説しました。
もちろん、この記事で紹介した以外にも節税のテクニックは様々です。
物件選びによって減価償却による節税効果は大きく変わってきますし、投資規模が大きくなれば法人化も検討する必要があります。